漬け物とステーキ。
この一見並ぶことのなさそうな2つの単語がカップリングされた
いささか奇妙な食べ物が、岐阜県飛騨地方に実在する。

“ステーキ”とはいうものの、特産の飛騨牛を使うわけではない。
牛肉はおろか、豚、鶏などの肉類は一切不使用。
主役は漬け物である。
熟成した漬け物をよく炒め、溶き卵でとじて、鰹節の削り節、刻み海苔、
紅生姜などをトッピング。
これが「漬け物ステーキ」の正体だ。
乱暴に言えば、“漬け物を焼いたもの”。
飛騨の居酒屋では定番メニューである。

山国・飛騨では、野菜のとれない冬期、漬け物は貴重な食料だった。
極寒期、ガチガチに凍りついてしまった漬け物を解かすために
朴葉に乗せて焼いてみたのが「漬け物ステーキ」の始まりという。
基本的に、焼くのはどんな漬け物でもいいが、
白菜の漬け物を使うのがポピュラーであるようだ。

熟成して乳酸発酵した漬け物が、焼かれることでさらに旨みを増す。
ついつい酒が進んでしまう一品である。
保存食を、ひと手間加えて美味しいおかずとして再構築・進化させた
飛騨の人々の知恵に乾杯。